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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(オ)881号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

一  上告代理人大蔵敏彦、同本杉隆利の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

二  職権によつて調査するに、原審は、(一) 掛川信用金庫は、日信印刷株式会社(以下「日信印刷」という。)との間で昭和三八年一一月一〇日債権元本極度額を三五〇万円、利息を日歩二銭七厘、遅延損害金を日歩四銭とし、日信印刷はその所有の印刷機械器具類を譲渡担保に供するとの約定で、貸付、手形取引等を行うとの金融取引契約を結び、上告人の被相続人である住谷慧秋は、同日掛川信用金庫に対し右金融取引契約に基づく日信印刷の債務を連帯保証した、(二) 掛川信用金庫は、その後日信印刷に対し右の金融取引契約に基づき三五〇万円を貸し付けた、(三) 静広美術印刷株式会社は、掛川信用金庫に求められて、掛川信用金庫に対し昭和四三年八月二〇日から昭和四四年七月二一日までの間に一二回にわたり合計六〇万円、同年九月三〇日三一九万七五〇〇円総合計三七九万七五〇〇円(内訳は貸金元本が三五〇万円、利息が右元本に対する昭和四三年八月三日から昭和四四年九月三〇日までの日歩二銭の割合による利息二九万七五〇〇円)を代位弁済し、かつ、掛川信用金庫の承諾を得て、掛川信用金庫が日信印刷に対し有していた貸金債権三七九万七五〇〇円(以下「本件貸金債権」という。)及びこれを担保する住谷に対する連帯保証債権(以下「本件連帯保証債権」という。)を代位取得した、(四) 静広美術印刷株式会社は、昭和五三年六月一四日、被上告人に対し、掛川信用金庫から代位取得した日信印刷に対する本件貸金債権及び住谷を相続した上告人に対する本件連帯保証債権を譲渡したところ、日信印刷は同年一〇月八日ころまでに右債権譲渡を承諾した、との事実を確定したのみで、本件貸金債権によつて確保されるべき求償権につきその存在、帰属、債権の内容を確定することなく、上告人は被上告人に対し本件連帯保証債権の三七九万七五〇〇円及びこれに対する静広美術印刷株式会社が代位弁済した最終日の翌日である昭和四四年一〇月一日から支払ずみまで日歩四銭の割合による遅延損害金についてこれをなんらの限定もなく支払う義務があると判断し、判決主文において、上告人に対し求償権との関係を示すことなく右金員の支払を命じているが、原判決には次のとおり違法があるというべきである。

弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保することを目的として、弁済によつて消滅するはずの債権者の債務者に対する債権(以下「原債権」という。)及びその担保権を代位弁済者に移転させ、代位弁済者がその求償権を有する限度で右の原債権及びその担保権を行使することを認めるものである。それゆえ、代位弁済者が代位取得した原債権と求償権とは、元本額、弁済期、利息・遅延損害金の有無・割合を異にすることにより総債権額が各別に変動し、債権としての性質に差違があることにより別個に消滅時効にかかるなど、別異の債権ではあるが、代位弁済者に移転した原債権及びその担保権は、求償権を確保することを目的として存在する附従的な性質を有し、求償権が消滅したときはこれによつて当然に消滅し、その行使は求償権の存する限度によつて制約されるなど、求償権の存在、その債権額と離れ、これと独立してその行使が認められるものではない。したがつて、代位弁済者が原債権及び担保権を行使して訴訟においてその給付又は確認を請求する場合には、それによつて確保されるべき求償権の成立、債権の内容を主張立証しなければならず、代位行使を受けた相手方は原債権及び求償権の双方についての抗弁をもつて対抗することができ、また、裁判所が代位弁済者の原債権及び担保権についての請求を認容する場合には、求償権による右のような制約は実体法上の制約であるから、求償権の債権額が常に原債権の債権額を上回るものと認められる特段の事情のない限り、判決主文において代位弁済者が債務者に対して有する求償権の限度で給付を命じ又は確認しなければならないものと解するのが相当である。

右の見解に立つて、本件についてみるに、本件は、代位弁済者から債権譲渡を受けた被上告人が原債権たる本件貸金債権についての連帯保証人の相続人である上告人に対し代位取得にかかる原債権たる本件貸金債権を担保する本件連帯保証債権を行使してその履行を請求したのであるから、被上告人に対し、右の代位行使によつて確保されるべき求償権につきその発生、帰属、債権の内容を主張立証させてこれを確定し、かつ、判決主文において、被上告人が日信印刷に対して有する求償権の限度で上告人に対し連帯保証にかかる金員の支払を命じなければならないものというべきである。したがつて、求償権につきなんら確定せず、かつ、判決主文において求償権との関係を示すことなく、上告人に対し本件連帯保証債権にかかる金員の支払を命じた原判決には、審理不尽、理由不備の違法並びに判決の結論に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈適用の誤りがあり、原判決はこの点で破棄を免れない。そして、本件については、右の点について更に審理を尽くさせるのが相当であるから、その余の上告理由についての判断を省略し、これを原審に差し戻すこととする。

三  よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮治郎 裁判官 高島益郎)

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